頭ごなしに否定したわけではない。それでもカートの行いを認めていないのは確かだとはっきり伝わるような発言を俺はした。
おかげでカートは不機嫌そうな態度を隠しもせずに、俺を一睨みすると、派手な音を立ててドアを開け部屋を出て行った。
彼はとても頑固だ。とりわけ自分が夢中になっていて、正しいと信じているものに対しては盲目的な部分がある。
だからそれについて一度意見を違えてしまうと歩み寄るのは難しい。それでも話せば分かると信じて、俺は彼の携帯電話の番号をプッシュする。
『……』
「カート」
『……』
電話は繋がったが相手は何も言わない。試しに名前を読んでみたが、帰ってくるのは無言の息だけだった。
しかし、俺からだと分かっているのに切らずにいるのは、彼が俺が知ってる中でもとりわけ頭の切れる賢い奴だという証拠だった。
「本当はお前も分かってるんだろう? 今のままじゃダメなことくらい、お前が気が付かないわけがない」
控えめだが力強く聡明な彼の瞳を思い出しながら、一言一言区切るように語り掛ける。
受話器の向こうからは相変わらず抑えた息遣いだけしか聴こえてこないが、俺の言葉に耳を傾けているのは分かるから、構わず続ける。
「理由があるなら――なくてもいいけどちゃんと真実を言えよ。今更何を聞いてもこっちは驚かない」
『…………嫌だ』
長い沈黙の後、微かな呟きが漏れた。あまりにも声が小さいので普段なら聞き逃すところだったが、今の俺は彼の一言一句に全神経を集中させていたので、電話の向こうで彼の息遣いの雰囲気が変わったのでさえ敏感に感じ取る事が出来た。
「どうして?」
『俺が未だにそんな事をして、表に影響を出しちまってるバカな奴だって分かれば愛想を尽かされる。俺がお前でもそうする』
「カート、なあ、俺の事は良く知ってるだろう。だったらそんな心配なんかいらないって分かるよな?」
『…………』
「大丈夫さカート、愛してる」
『……うん』
最後になるべく優しい声で安心させるようにかけた言葉に、やっぱり小さく、しかしはっきりと答えて電話は切れた。
結論は出ていないように聞こえる会話かもしれないが、俺には確信があった。
俺が明日の朝、いや早ければ今晩にでもカートの部屋を訪ねれば、彼はさきほどの剣呑な雰囲気など見せず、恥ずかしそうな顔をしながら俺を見て話してくれるだろう。
きちんと正面から視線を合わせて話せば、カートがまるで昔と変わっていないのをきちんと確認できる。
俺はそれが正しい事を証明すべく、マネージャーにカートの部屋番号を聞いてからスタジオを後にした。