部屋の隅で座り込んでいるカートにクリスが近付く。抱えた膝の上に半分だけ顔を出し、カートはクリスと一言二言会話を交わし、またくしゃくしゃの金髪を垂らして俯いてじっと蹲る。
珍しくも何ともないステージ裏での光景だ。このバンドに招聘されてからもう何度も見ているお馴染みの場面だ。
にもかかわらず、見るたびにいらつきが増し、デイヴは聞こえないように舌打ちをした。
この怒りはどこへぶつけるべきものなのか。
周りの人間――ともすれば地球上の誰とも話す気のない時でさえクリスにだけは反応を示すカートへなのか、カートからの揺るぎない信頼を当たり前のように享受しているクリスへなのか。
それとも、ただ羨ましげに見てるだけで何もせず、疎外感に拗ねてその壁を壊せない自分へ向けてのものなのか。
『気にするな、昨日今日知り合った俺と高校時代からの親友じゃ態度に差があって当たり前だ』
『そうさ、何て事はない。これは"ただの"嫉妬だ』
口の中で呟いてデイヴは目を閉じた。そして呪文のように頭の中で繰り返す。
拒否されてるわけじゃない。バンドに参加した時も、2人にはたいそう歓迎されたじゃないか。そうだ、俺はちゃんと必要なんだ。
「デイヴ、行こう」
高い位置から降ってきた声にはっとしてデイヴが目を開けると、クリスが見下ろしながら笑っていた。その向こうではカートがよろよろと立ち上がり、クリスとデイヴの方へ身体を向き直すところだった。
近くと遠くで自分を見る視線に、デイヴは知らず安堵の息を吐いた。
大丈夫、俺もちゃんと仲間だと認められているんだ。
「今日は何を食べに行く?」
クリスと並んでカートの方へ歩きながら、デイヴは明るい声を上げた。