いつになったらあの間に入れるのだろうか。
ドラムキットが模る爆音の額縁の合間から、デイヴは目の前のステージを見た。
小柄なギタリストが弦を掻き鳴らし怒りに満ちたシャウトを観客に投げつけ、大柄なベーシストが低音を轟かせながら飛び跳ねる。
曲が終わり、カートがクリスに向かってちらりと目配せをした。何事かを問うて小さく呟く唇が、クリスが頷くのを見てわずかに笑みの形にあがる。
一秒にも満たないその仕草が、デイヴの目の中にだけ鮮明に浮かび上がった。なぜか胸に小さな針が刺さったような痛みが走り、デイヴは思わずスティックで自分の胸を打った。
表面の痛みで、心の奥底にいつも感じる痛みとリフレインをかき消すように。
俺はここにいていいのか。
ギターとベースを繋ぐ深いリズムの中に、己のリズムを刻み込んでもいいのか。
クリスの方を向いていたカートが今度は後ろを向き、スティックを振り回すデイヴを見た。それに気づいてデイヴも動きを止め、カートを見る。
強過ぎるライトと観客のざわめきの中で視線が交差し、カートの唇がクリスに向けた笑みの形のままで僅かに動く。「ready?」
聞こえるか聞こえないかの呼びかけに、胸の痛みが鼓動に変わるのを、デイヴははっきりと感じた。
カートが前に向き直り、ギターがノイズを引きずって鳴き出した。その瞬間、痛みも鼓動も飲み込まれ興奮だけがデイヴの全身を支配した。
後はただ、爆音の中でデイヴは熱に浮かされたようにドラムを叩き続けた。